2018年
2018年12月27日
許斐 恒彦(整82回相当) 谷本 祐之(整88回相当) 第53回日本脊髄障害医学会学会奨励賞 (臨床部門および基礎部門) をダブル受賞
2018年11月22日から23日に愛知県産業労働センターウインクあいちで開催された第53回日本脊髄障害医学会において、許斐恒彦が学会奨励賞(臨床部門)、谷本祐之が学会奨励賞 (基礎部門)を受賞した。
本学会は、東京パラリンピックが開催された2年後の1966年、当時の急速なモータリゼーションの発達による脊髄損傷患者の急増に反映される形で、日本パラプレジア医学会として第1回大会が開催された。その後、回を重ねるごとに発展を遂げ、脊髄再生医療という新しい波にも呼応すべく、2002年に日本脊髄障害医学会に名称を改め、現在では脊髄損傷を中心とした脊髄障害の病態、治療、管理、リハビリテーションなどに関する研究発表、知識の交換、研究者の交流の場となっている。会員数は1300名を超え、脊髄障害に関係する整形外科、脳神経外科、泌尿器科、リハビリテーション科、神経内科などの医師や関連するコメディカル等、多岐にわたる職種が一同に会する学際的学会である。本賞は毎年の応募演題の中から最も優れた発表を行った者に対して、基礎部門・臨床部門各1演題ずつに授与される名誉ある賞である。今回は、毎年2名しか受賞できない奨励賞を慶應が独占するという快挙となった。
許斐は、頚髄損傷の損傷程度を加味した機能予後に関する研究成果を発表した。本研究では、外傷性頚髄損傷患者447例中、初療時に完全運動麻痺を伴う患者87症例の様々な因子の中から機能予後不良に寄与する独立因子について、ロジスティック回帰分析を行ない、初診時T2強調MRIにおける高輝度内低輝度信号変化、高度な脊髄圧迫、脱臼転位の存在が、予後不良の危険因子であることが分かった。受傷時の麻痺の程度にMRI画像所見を加味することで精度の高い機能予後予測が可能であることを実証し、その研究成果が認められ、今回の受賞に至った。
谷本は2016年4月より大学院研究科博士課程へ入学後、整形外科 中村雅也教授、生理学 岡野栄之教授に師事し、iPS細胞を用いた脊髄再生医療の研究、特に臨床応用した際に使用できる画像評価系の確立に従事している。本研究では、組織の代謝性変化を鋭敏に検出することができるPETと、未分化なiPS細胞由来神経幹細胞に存在しうるTranslocator protein (TSPO:末梢性ベンゾジアゼピン受容体)の放射性リガンドによるライブイメージングシステムを用いることで、移植後に残存する未分化細胞の異常増殖をモニターすることに見事に成功した。本研究は、放射線診断科の陣崎雅弘教授と藤林靖久特任教授との共同研究による成果であり、脊髄損傷領域にPETを導入した点が斬新かつ有用な画像診断技術と評価され、受賞に至った。
脊髄損傷は不治の病態と考えられてきたが、外科的治療および基礎研究の進歩により、再生医療への扉が今まさに開こうとしている。この領域を今後さらに発展させるためには、臨床・基礎の研究を両輪で地道に進めていくことが大切であり、今回受賞した許斐君と谷本君の更なる飛躍を期待したい。
(名越慈人 整形外科 81回)